これからの農業で勝つ人材育成と経営手法 和郷園木内博一氏インタビュー

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「農家の自律」をモットーに、経営多角化を成功させている先駆者として著名な千葉県香取市の和郷グループ。カット野菜工場、冷凍加工、直売所、カフェ、観光施設THE FARM、などの千葉県内事業に加え、福井和郷、大分和郷などの県外ビジネスや、OTENTOブランドでの香港やタイ、シンガポールの海外事業と、前例のないビジネスモデルに挑戦し続け、日本中の農家にチャンスと可能性を示し続けている。

 

このたび、和郷グループを牽引するカリスマ経営者、木内博一氏が「農業界を牽引する次世代人材を育成する。そのための研修の場を準備した」という。背景になる考えと、「新しい人材育成の仕組み」についてインタビューした。

 

 

事業は「進めながら改善」していく

 

-和郷グループのビジネスや、木内代表の関わる仕事をオープンにした人材育成に取り組むと聞きました。教育の内容は、かつての弟子入りにも近いとのことですが、研修についてお聞かせください。

 

木内:結論から言うと、農業のリスクとリターンを体験、体感することを最重視した実業家、起業家を生む教育の仕組みだ。何事もまずやってみることが重要。これを、私の仕事や和郷グループのビジネスの周辺で体験できるようにする。多くの農業研修は計画や準備に時間をかけすぎている。これは知識ある人材は教育できるかもしれないが、農業特有のリスクや天候変化に対応できる知恵ある人材が育たない場合が多い。準備にあまり時間をかけすぎないこと。ある程度のところまで準備したら、まずはやってみることが重要という考えで、人材育成に取り組みたいと考えた。

 

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-なるほど。研修生はどのような考え方で仕事に取り組むことになるのでしょうか。

 

木内:どれだけ入念に準備をしても、事業を動かすと問題が出てくる。よって、早く事業を動かした方が早く想定外の問題に出会えるし、早く解決策を考えられる。問題が出てきたら改善点を発見し、事業を進めながら手直ししていく。こうやって、問題が出ることを前提に着手し、自ら考えて改善していく体験が人の成長には欠かせない。

 

例えば野菜を作って売る、という仕事がある。野菜生産の経験がない多くの人は、スーパーや飲食店で毎日野菜が並ぶことを当たり前だと思いがちだが、実は非常に難しい仕事だ。これは「マーケットが求める量」と「農場で生産できる量」が常にイコールでないことが要因。需要と供給を合わせることが難しい。収量はどうしても天候に左右されるからね。農業以外の製造業は、十分な調査、企画、下準備、と計画通りに動ける優秀な人材がいればある程度の収益が見込める。しかし、農業は違う。

 

天候という条件を乗り越えてマーケットが求める量を適正品質で作るという仕事は、どれだけ学歴や研究実績があってもできない。事実、和郷グループでは過去に有名な大手企業出身者や、エリートと言われる優秀な人材を採用して農業経営を任せる、ということを2~3年テストしてみたが、多くが結果を出せなかった。いくら綿密な計画を立てても、その農業ビジネスが成功するとは限らない。だから、ある程度考えたらリスクがあることを前提に生産し始める。問題が出たらその都度改善する。この繰り返しを体験することが必要だ。

 

 

自分の基準で「前提」や「根本」を見直してみる

 

木内:私はいつも部下や後輩に、「物事は、まずは前提、根本を疑え」と伝えている。たとえば、昨今政府や与党が進めている農業資材のコストダウンについて。基本路線は私も賛成しているが、あの考え方でコストダウンに成功しても、農家の事業拡大が進むかは疑問だ。数字に置き換えてみるとわかる。

 

10aあたりのコメの肥料代が1万円、農薬代が5,000円とする。それを与党がJAを指摘しながら値下げして6,000円と2,500円になったとしよう。10aあたりのコストが6,500円下がる。これをコメ農家の経営が成り立つ規模といわれる20haに照らし合わせると、200倍のコストダウンになるから130万円だ。ここで考えねばならないことは、20haのコメ農家が年間130万円のコストダウンができたところで、翌年の農業経営にどこまでインパクトがあるか、ということ。「ここから本当に成長路線にシフトできるか?」を考えると、130万円程度の増益で経営をイノベーションできる農家がいるか、という問題を考えねばならない。

 

また、農家の資材仕入れにおける交渉についても同じだ。加工場を建設する時に、建築会社から坪60万円の見積もりが出たときに、「55万円に下げてほしい」と交渉するようではダメ。これは坪60万円という見積もりを受け入れてしまっている。本当に坪60万円必要なのかどうか、前提を疑い、農家自らが勉強して適正価格を検証することが重要。こういった、交渉に関する考え方や進め方も、現場の仕事を通じて学んでいくことが大切だ。

 

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-そういった経営の考え方と手法を学べると、仕事を進める力がつきますね。

 

木内:学んだら、一緒に進路を考えていく。起業家になったり、食品関係のキャリアについてもいいと思っている。例えば、自分の強みと弱みを分析する場合、和郷グループに入社すると、どうしてもできないことをできるようになってもらわないといけない。会社の方針やルールは、最低限は守らなければならないからね。でも、今回の研修は自分が突破できる資質を発見して磨くことに焦点を置く。社会に役立たせることができる、自分の本当の強みを発見することが大事。最初は弱みは無視して進んでいい。弱みの改善は必要なタイミングで直せばいい。まずは強みを武器にスタートすることが大事だ。和郷グループには多くの事業があって学べる仕事が非常に多い。つまり、多くの仕事が体験でき、その体験が人を成長させる。

 

 

農業を目指す人は、時間をかけて「何がやりたいのか」を考えてほしい

 

-木内代表の側近となる人の募集について、条件や資質はありますか?

 

木内:一番大切なのは素直であること。素直で柔軟で、多くのことを吸収して成長できる人。年齢は35歳以下だと思っているね。35歳を過ぎて「何がやりたいのかを探したい」というのは歳を取り過ぎだ。20代のうちに自分らしい農業経営のマーケットを決めて動き始めれば、40歳には形になる。さらに、そこからもう一段上を目指して仕掛けることができる。

 

-最後に、これから農業を目指す人たちにアドバイスをお願いします。

 

木内:農業をはじめる前には、「どういった農業をやるのか?」をよく考えること。人は技術を学ぶと、それを捨てられなくなるんです。たとえば、何かひとつの作物の作り方を学んだら、その作物を中心に物事を考えてしまう。どうしてもそこをベースにしようとする。そうではなくて、まず自分は何をやるべきか、何をやりたいのか、時間をかけて考える。私は「仕事の8割は段取り」と常々いっています。

 

 

・農事組合法人和郷園 代表理事 兼 株式会社和郷 代表取締役 木内博一

91年に有志5名で野菜の産直を開始し、96年に有限会社和郷を、98年に和郷園を設立。05年には有限会社和郷を株式会社和郷に組織変更。千葉県農林水産功労者賞を受賞。著書に『最強の農家のつくり方』など。67年生まれ。

 

・農事組合法人和郷園

98年の設立以来、GAPの取り組み、加工事業、販売事業、リサイクル事業などを手がけ、地域に密着した循環型農業のビジネスモデルを構築。

和郷園本部センター/千葉県香取市新里1020 Tel 0478-78-550

お問い合わせ先はこちらを参照→http://www.wagoen.com/otoiawase.html



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